糖尿病の診療では、血糖値やHbA1cに目が向きやすいですが、同じくらい大切なのが腎臓の状態を定期的に確認することです。
慢性腎臓病(CKD)は、初期には自覚症状が乏しいことがあります。特に2型糖尿病とCKDの両方がある方では、腎機能の悪化だけでなく、心血管疾患のリスクにも注意が必要です。
今回は、2型糖尿病とCKDがある患者さんを対象に、GLP-1受容体作動薬「セマグルチド」が腎臓や心血管イベントにどのような影響を与えるかを調べた、NEJM掲載のFLOW試験をご紹介します。
今回紹介する論文
論文名: Effects of Semaglutide on Chronic Kidney Disease in Patients with Type 2 Diabetes
著者: Perkovic V, Tuttle KR, Rossing P, et al.
掲載誌: The New England Journal of Medicine
掲載年: 2024年
巻・ページ: 391巻 109–121ページ
どのような研究だったのでしょうか?
FLOW試験は、2型糖尿病と慢性腎臓病を併せ持つ患者さん3,533人を対象とした、無作為化・二重盲検・プラセボ対照試験です。
参加者は、
セマグルチド群:1,767人
プラセボ群:1,766人
に無作為に分けられました。
セマグルチド群では、週1回1.0mgの皮下注射が使用されました。対象となったのは、eGFR(腎臓のろ過能力の目安)と尿中アルブミン量から、一定以上のCKDがあると判断された患者さんです。
追跡期間の中央値は3.4年でした。試験は、あらかじめ定められていた中間解析で有効性が確認されたことを受け、早期終了が勧告されています。
何を調べた研究なのでしょうか?
主な評価項目は、次のような重大な腎臓関連イベントなどを組み合わせたものでした。
腎不全の発症
eGFRが基準値から50%以上持続的に低下
腎疾患による死亡
心血管疾患による死亡
つまり、「血糖値が下がったか」だけではなく、将来の腎不全や死亡といった重要な臨床イベントを減らせるかを検討した研究です。
結果① 腎臓に関連する主要イベントなどが24%少なかった
主要評価項目のイベントは、
セマグルチド群:331件
プラセボ群:410件
でした。
ハザード比は0.76(95%信頼区間 0.66~0.88)で、セマグルチド群では主要評価項目のリスクが相対的に24%低い結果となりました。
ここで注意したいのは、「24%の人が必ず腎不全を防げる」という意味ではないことです。
24%という数字は、研究期間中の相対的なリスク低下を表しています。
結果② 腎機能の低下スピードにも差がみられました
腎機能を示すeGFRは、年齢や病気の影響によって徐々に低下することがあります。
今回の研究では、年間のeGFR低下速度はセマグルチド群の方が緩やかで、両群の差は1年間あたり1.16 mL/min/1.73m²でした。
この結果は、セマグルチド群では腎機能低下のスピードが相対的に遅かったことを示しています。
結果③ 心血管イベントや全死亡も評価されました
主要心血管イベントについては、
セマグルチド群:212件
プラセボ群:254件
で、ハザード比は0.82でした。研究上は18%の相対的リスク低下が認められました。
さらに、すべての原因を合わせた死亡は、
セマグルチド群:227人
プラセボ群:279人
で、ハザード比は0.80(95%信頼区間 0.67~0.95)でした。
今回の研究は、糖尿病治療を「血糖値だけ」で評価するのではなく、腎臓や心血管疾患を含めた長期的な合併症まで考える重要性を示す研究の一つと考えられます。
副作用については?
重篤な有害事象は、
セマグルチド群:49.6%
プラセボ群:53.8%
で、セマグルチド群の方が少ない結果でした。
ただし、これは「セマグルチドには副作用がない」という意味ではありません。
薬剤にはそれぞれ副作用や使用上の注意があり、患者さんの腎機能、その他の疾患、併用薬などを考慮して使用する必要があります。
この研究からクリニック診療で考えたいこと
今回の研究から一般の方にも知っていただきたいのは、糖尿病では腎臓の状態を早い段階から確認することが重要という点です。
腎臓のチェックには、代表的に、
血液検査によるクレアチニン・eGFR
尿検査による尿蛋白
尿中アルブミン
などがあります。
血液のクレアチニン値だけでは、早い段階の糖尿病性腎障害を十分に把握できない場合があります。そのため、糖尿病のある方では、血液検査と尿検査を組み合わせて腎臓の状態を評価することが大切です。
「糖尿病ならセマグルチドを使えばよい」という研究ではありません
今回の結果を読むうえで、ここは非常に重要です。
FLOW試験の対象になったのは、単に2型糖尿病がある方ではなく、2型糖尿病に加えて一定の基準を満たす慢性腎臓病がある患者さんです。
そのため、
「糖尿病がある人は全員セマグルチドを使用した方がよい」
「腎臓が少し悪いだけで、この治療を開始すればよい」
という結論にはなりません。
治療薬の選択は、HbA1c、腎機能、尿蛋白・尿中アルブミン、心血管疾患の有無、年齢、体調、現在使用している薬などを総合して判断します。
この研究の限界
FLOW試験を日常診療に当てはめる際には、いくつか注意点があります。
第一に、対象者は2型糖尿病と一定以上のCKDを併せ持つ比較的リスクの高い患者さんです。そのため、腎障害のない糖尿病患者さんや、糖尿病ではないCKD患者さんに同じ結果をそのまま当てはめることはできません。
第二に、試験はあらかじめ設定された中間解析結果をもとに早期終了しています。早期終了自体は研究計画に組み込まれたものですが、長期間継続した場合の効果や安全性については、この試験だけでは判断できない部分があります。
また、本研究はNovo Nordisk社の資金提供を受けています。この点も、研究結果を評価する際に確認しておくべき情報です。
糖尿病の方こそ、「血糖+腎臓」を確認しましょう
糖尿病による腎臓への影響は、自覚症状だけでは分からないことがあります。
「HbA1cは確認しているけれど、eGFRや尿中アルブミンはよく分からない」という方は、次回の診察時に一度確認してみてもよいでしょう。
ソラーレクリニック太子では、糖尿病をはじめとする生活習慣病について、血糖値だけでなく腎機能やその他の合併症も考慮しながら診療を行います。
糖尿病の治療内容や腎機能について気になることがある方は、受診時にご相談ください。
参考文献
Perkovic V, Tuttle KR, Rossing P, et al. Effects of Semaglutide on Chronic Kidney Disease in Patients with Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2024;391:109-121. doi:10.1056/NEJMoa2403347. PMID:38785209.
※本記事は医学論文の内容を一般向けに紹介することを目的としており、特定の薬剤の使用を推奨するものではありません。治療薬の適応や選択は患者さんごとに異なりますので、自己判断で薬を開始・変更・中止せず、医師にご相談ください。











