「いびきがひどいと言われる」「寝ている間に呼吸が止まっていると言われた」「しっかり寝ているはずなのに昼間に眠い」。
こうした症状の背景に、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)が隠れていることがあります。
OSAでは、睡眠中に上気道が繰り返し狭くなったり閉塞したりすることで、無呼吸や低呼吸が起こります。肥満はOSAと深く関連する重要な要因の一つです。
今回は、肥満を伴う中等症~重症OSAの患者さんに対するチルゼパチド(2型糖尿病や肥満症の治療に用いられる持続性GIP/GLP-1受容体作動薬)の効果を調べた、NEJM掲載のSURMOUNT-OSA試験をご紹介します。
今回紹介する論文
論文名: Tirzepatide for the Treatment of Obstructive Sleep Apnea and Obesity
著者: Malhotra A, Grunstein RR, Fietze I, et al.
掲載誌: The New England Journal of Medicine
掲載年: 2024年
巻・ページ: 391巻 1193–1205ページ
DOI: 10.1056/NEJMoa2404881
PMID: 38912654
PubMedおよびNEJM公式資料で、論文名・DOI・掲載情報を確認できます。
どのような研究だったのでしょうか?
SURMOUNT-OSAは、肥満があり、中等症~重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群がある成人を対象とした、2つの第3相・無作為化・二重盲検・プラセボ対照試験です。
2試験合わせて469人が参加しました。
特徴的なのは、患者さんをCPAPなどのPAP療法の使用状況によって2つの試験に分けていることです。
試験1では、PAP療法を使用していない、または使用できない患者さんを対象としました。
試験2では、PAP療法を継続して使用している患者さんを対象としました。
それぞれの試験で、参加者は週1回のチルゼパチドまたはプラセボに無作為に割り付けられ、52週間治療を受けました。
何を調べたのでしょうか?
研究で最も重要な評価項目は、
AHI(無呼吸低呼吸指数)がどのくらい変化したか
という点です。
AHIとは、睡眠1時間あたりに無呼吸・低呼吸が何回起きているかを示す指標です。
一般的にAHIが高いほど、睡眠中に呼吸が繰り返し乱れていることを意味します。
結果① 無呼吸・低呼吸の回数が大きく減少
PAP療法を使用していない試験1では、開始時の平均AHIは約51回/時でした。
52週間後のAHI変化は、
チルゼパチド群:−25.3回/時
プラセボ群:−5.3回/時
で、群間差は−20.0回/時でした。
一方、PAP療法を使用していた試験2では、開始時の平均AHIは約49回/時でした。
52週間後は、
チルゼパチド群:−29.3回/時
プラセボ群:−5.5回/時
で、群間差は**−23.8回/時**でした。
つまり今回の研究では、肥満を伴う中等症~重症OSA患者さんにおいて、チルゼパチド群でAHIが大きく低下しました。
結果② 体重だけでなく「夜間の低酸素」も改善
今回の研究ではAHIだけではなく、
体重
睡眠中の低酸素負荷
血圧
炎症マーカーである高感度CRP
患者さん自身が感じる睡眠関連症状
なども評価されました。
これらの主要な副次評価項目についても、チルゼパチド群ではプラセボ群と比較して改善がみられました。
特にOSAでは、単に「いびきをかく」という問題だけではなく、睡眠中に低酸素状態が繰り返されることも重要です。
今回の試験で低酸素負荷についても改善が確認されたことは、研究上注目すべきポイントです。
この研究から考えたい「肥満と睡眠時無呼吸」の関係
今回の研究結果から重要なのは、
肥満を伴うOSAでは、体重管理がOSA治療を考えるうえでも重要な要素になる
ということです。
従来、OSAの治療ではCPAPなどのPAP療法が重要な役割を担っています。
一方で今回の研究は、肥満というOSAの背景因子に介入することで、睡眠中の呼吸状態そのものが改善する可能性を示しました。
ただし、
「チルゼパチドを使用すればCPAPが不要になる」
と結論づけることはできません。
試験2では、そもそもPAP療法を継続している患者さんにチルゼパチドを追加する形で研究されています。
CPAPを自己判断で中止することはせず、治療方針はAHIや症状、体重、合併症などを確認しながら医師と相談することが重要です。
副作用については?
チルゼパチド群で最も多く報告された有害事象は消化器症状で、多くは軽症から中等症でした。
薬物療法には適応や副作用があります。
そのため、今回の研究結果だけをもとに、
「いびきがあるから使う」
「体重が多いから使う」
というものではありません。
OSAの診断と重症度、肥満の程度、糖尿病などの合併症、現在の治療内容などを総合的に判断する必要があります。
この研究の限界
今回の研究を日常診療に当てはめる際には、いくつか注意点があります。
まず、研究対象は肥満を伴う中等症~重症OSA患者さんです。そのため、肥満のないOSA患者さんや軽症OSAの患者さんに同じ結果が当てはまるかは、この研究からは判断できません。
また、研究期間は52週間であり、それ以上の長期間にわたってOSAへの効果がどのように推移するかについては、この試験だけでは十分に分かりません。
さらに、本研究はEli Lilly社の資金提供を受けています。この点も研究結果を評価する際に確認しておくべき情報です。
また、今回の試験はAHIなどの指標を改善することを示した研究であり、心筋梗塞や脳卒中、死亡などの長期的な心血管イベントを減少させることを証明した試験ではありません。
「いびき」だけではない睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群では、
大きないびき
睡眠中に呼吸が止まる
夜中に何度も目が覚める
朝起きたときに頭が重い
日中に強い眠気がある
十分寝ても疲れが取れない
などがみられることがあります。
ただし、症状だけで睡眠時無呼吸症候群と診断することはできません。
特に、ご家族から「寝ている間に呼吸が止まっている」と指摘された場合や、いびきに加えて日中の眠気などがある場合には、睡眠中の呼吸状態を一度調べることが検討されます。
ソラーレクリニック太子では、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査・診療、CPAP治療を行っています。
「いびきが気になる」「寝ている間に呼吸が止まっていると言われた」「昼間に眠くて困る」といった症状がある方は、ご相談ください。











