「心不全」というと、「心臓の力が弱くなっている病気」というイメージを持つ方が多いかもしれません。
しかし実際には、心臓の収縮する力(左室駆出率)が保たれていても心不全を起こすことがあります。これはHFpEF(左室駆出率が保たれた心不全)と呼ばれます。
HFpEFは、高血圧、糖尿病、加齢、肥満などと関連し、息切れやむくみ、疲れやすさなどの原因になります。
今回は、肥満を伴うHFpEF患者さんに対するチルゼパチドの効果を検討したSUMMIT試験をご紹介します。
今回紹介する論文
論文名: Tirzepatide for Heart Failure with Preserved Ejection Fraction and Obesity
著者: Packer M, Zile MR, Kramer CM, et al.
掲載誌: The New England Journal of Medicine
掲載年: 2025年
巻・ページ: 392巻 427–437ページ
HFpEFとは?
心臓には、全身へ血液を送り出す「ポンプ」としての働きがあります。
心不全の中には、心臓の収縮力が明らかに低下するタイプだけでなく、収縮力自体は比較的保たれているものの、心臓が十分に広がりにくくなるなどして心不全症状が現れるタイプがあります。
今回の研究が対象としたのは、
左室駆出率50%以上のHFpEF
かつ
BMI 30以上の肥満
がある患者さんです。
どのような研究だったのでしょうか?
SUMMIT試験は国際的に行われた、二重盲検・無作為化・プラセボ対照試験です。
対象は731人。
患者さんは1対1で、
チルゼパチド群:364人
プラセボ群:367人
に分けられました。
チルゼパチド群では、週1回の皮下注射を最大15mgまで使用しています。
治療期間は少なくとも52週間で、追跡期間の中央値は104週間でした。
研究で特に重要な評価項目は2つ設定されました。
1つ目は、心血管死または心不全悪化イベント。
2つ目は、心不全による症状や日常生活への影響を評価するKCCQ-CSSという指標の変化です。
結果① 心不全悪化などのイベントが少なかった
心血管死または心不全悪化イベントは、
チルゼパチド群:36人(9.9%)
プラセボ群:56人(15.3%)
に発生しました。
ハザード比は0.62(95%信頼区間 0.41~0.95)でした。
特に心不全悪化イベントは、
チルゼパチド群:8.0%
プラセボ群:14.2%
で、チルゼパチド群で少ない結果でした。
一方、心血管死だけを見ると、
チルゼパチド群:2.2%
プラセボ群:1.4%
であり、この研究だけから「心血管死を減らす」と結論づけることはできません。
ここは研究結果を読むうえで非常に重要なポイントです。
結果② 息切れなどを含む健康状態も改善
52週間後のKCCQ-CSSの改善は、
チルゼパチド群:19.5ポイント
プラセボ群:12.7ポイント
で、群間差は6.9ポイントでした。
KCCQは、心不全患者さんの症状、身体機能、生活への影響などを評価する質問票です。
つまり今回の研究では、単に検査値を見るだけでなく、患者さん自身が感じる症状や生活の状態についても改善が認められたことになります。
副作用についても確認が必要です
薬剤の副作用などによって研究薬を中止した患者さんは、
チルゼパチド群:6.3%
プラセボ群:1.4%
でした。
チルゼパチド群で中止につながった有害事象は、主に消化器症状でした。
したがって、治療効果だけでなく、体調や副作用を確認しながら治療を行う必要があります。
この研究から考えられること
今回の研究で重要なのは、肥満と心不全を別々の問題として考えるのではなく、関連した病態として考える必要性が示されている点です。
肥満を伴うHFpEF患者さんでは、体重だけでなく、息切れ、運動能力、生活の質、心不全の悪化などを総合的に考える必要があります。
一方で、この研究結果から、
「肥満の人はチルゼパチドを使用した方がよい」
あるいは、
「息切れがある人にチルゼパチドを使用すればよい」
と判断することはできません。
今回の研究対象は、HFpEFと診断され、なおかつBMI 30以上だった患者さんに限られています。
研究結果を見るときの注意点
この研究には、日常診療へ当てはめる際に注意すべき点があります。
まず、対象者は731人であり、心血管死そのものの発生数は少数でした。主要評価項目の差は、主として心不全悪化イベントが少なかったことによるものです。NEJMに掲載された後のCorrespondenceでも、この点について議論されています。
また、対象はBMI 30以上のHFpEF患者さんであるため、肥満のないHFpEF患者さんに同じ結果が当てはまるかは、この試験からは分かりません。
さらに、本研究はEli Lilly社の資金提供を受けています。このこと自体が研究結果を否定するものではありませんが、研究を評価する際に確認しておくべき情報の一つです。
「年齢のせい」と思っている息切れに心不全が隠れていることも
HFpEFでみられる症状には、
歩いたときの息切れ
階段で以前より息が上がる
疲れやすい
足がむくむ
横になると息苦しい
などがあります。
ただし、これらの症状は心不全だけに起こるものではありません。
呼吸器疾患、貧血、運動不足、その他の病気でも同じような症状がみられるため、症状だけで心不全と判断することはできません。
特に高血圧・糖尿病・肥満などがあり、最近息切れやむくみが気になる場合には、一度原因を確認することが大切です。
ソラーレクリニック太子では、内科診療として、高血圧・糖尿病などの生活習慣病や、息切れ・むくみなどの症状について診察を行っています。
症状や診察結果によっては、必要な検査や専門医療機関への紹介を検討します。











